投手がボールをリリースする瞬間、腕はどのような状態になっていると思いますか?肘はまっすぐ伸びている?それともちょっと曲がっている?イメージからすれば、前者の方が良いと考えている方も多いのではないでしょうか。ですが推奨すべきリリースの瞬間は後者なのです。ボールをリリースする瞬間は、腕は伸展し切っていない状態が望ましいのです。
一昔前は「腕を大きく使え」という指導が一般的だったと思います。ですがこの指導法だと、リリースの瞬間に腕が伸展し切ってしまうケースが多くなってしまうのです。ではリリースの瞬間に腕が伸展し切ってしまうとなぜ良くないのでしょうか?その理由は肘頭(ちゅうとう)が上腕骨と衝突しやすくなってしまうためです。簡単に言えば、肘が痛くなってしまうということです。
2010年以降Littlerockheartがコーチングさせて頂いた野球指導者さんの中にも複数、リリースの瞬間は腕をしっかり伸ばすように指導されていた方がいらっしゃいました。しかしこの投げ方を続ければ遅かれ早かれ、限りなく100%に近い確率で選手は肘痛を発症してしまうことになります。そして痛くなるタイミングは人それぞれであるため、例えば中学生の時にその投げ方を指導されたとしても、実際に肘が痛くなるのは大学生になってからや、プロ野球に入ってからというケースもあるのです。
Littlerockheartは2010年に開講しましたが、これまで野球肘に苦しんでいる選手たちと本当に多く出会ってきました。病院に通って痛みが取れても、投げればまた肘が痛くなり、整骨院に通って痛みが取れても、また投げれば痛くなるということを繰り返していた投手も少なくはありません。
少年野球のコーチをされている方々は、みなさん仕事の合間を縫ってボランティアで活動されているのだと思います。そのような親切なコーチのみなさんに厳しいことは言いにくいわけですが、しかし野球少年たちの将来を思うならば、やはり人体の構造に即した適切な投球動作というものを勉強しなければなりません。もちろん私たちのようなプロレベルの知識をすべて覚えてください、ということではありません。最低限知っておけばいいことというのが、投球動作にはいくつかあります。それを抑えておけば、野球少年や野球少女たちに間違った指導をしてしまうこともなくなり、将来その子たちが野球肘や野球肩に苦しむリスクも軽減させてあげることができるのです。
野球肘というのは、99%は投球動作に問題があります。つまり一度でも肘が痛くなったことがあるという投手には、必ず投球動作内に問題点があるのです。ただし肘痛というのは離断性骨軟骨炎といって、11歳前後のお子さんに関しては何もしていなくても発症してしまうことがあります。成長痛とも違うのですが、骨の成長具合と血管とのバランスがまだ整わないことで、11歳前後のお子さんは肘に痛みを感じることがあるのです。だいたい一学年に一人くらいの割合となるでしょうか。確率としては1%以下と決して高くはないのですが、これと野球肘との見極めが非常に難しかったりもするのです。
Littlerockheartの投手コーチは、書店で市販されている一般的な野球教則本で投げ方を学んだわけではありません。もちろん市販されている教則本は一通り読んでいるのですが、しかしLittlerockheartの投手コーチングの基礎となっているものは、そこから学んだものではありません。多くの投手の映像解析に加え、『臨床スポーツ医学』や『スポーツメディスン』などのスポーツ医学・スポーツ臨床の専門誌で学びながら投球動作の研究をして来たのです。
そのためLittlerockheartの投手コーチングは、コーチの経験則では行いません。あくまでも臨床結果などを踏まえた科学的根拠をベースにし、選手個々の状態に合わせた論理的な方法でコーチングを行います。もちろん選手に対して難しい医学用語などは使いませんが、このように科学的根拠をベースにしているために、Littlerockheartの投手コーチングでは確かな効果を得られることができるのです。そしてコーチとして、難しいことをいかに分かりやすく伝えるか、ということも日々鍛錬しているのです。
ここで野球肘に話を戻すと、なぜ野球肘になってしまったのか、将来野球肘になる可能性はないかということを、Littlerockheartの投手コーチは投球動作から見極めることができるのです。もちろん整形外科のような医術を施すことはできませんが、しかし医学的観点から学んできた投球動作解析法により、論理的かつ分かりやすいコーチングをすることができるのです。
今回の投手育成コラムは「コーチはどのような勉強をされているのですか?」というご質問がいくつか届いていたため、いつもとはちょっと違った趣向で書かせて頂きました。コーチングのご相談を頂く際には、ぜひ参考にして頂ければと思います。
P.S.
肘や肩に痛みがある際は、迷うことなく病院に行って治療を受けてください。