理想的な投球動作とは、一言で表現するならば、無駄のない投球動作だと言えると思います。いかに無駄なく、生み出したエネルギーを、投じるボールに伝えることができるかどうか。投手にとってこれは、究極のテーマだと言えます。まったく無駄のない投球動作でボールを投げられている投手は、皆無と言っていいかもしれませんね。
投球動作から無駄をなくすという過程の中で一番難しいのは、必要な動作を削らずに、無駄な動作を減らすということです。いくら投球動作の中から無駄な動作を失くせたとしても、必要な動作までをも失くしてしまえば、それは本末転倒です。いかに必要な動作を削らずに、無駄な動作だけを減らして行くことができるか。アプローチとしては非常に難しいことです。
では無駄な動作とは、一体どのようにして見極めれば良いのでしょうか?ハッキリ言ってこれは、十人十色です。10人の投手がいれば、10通りの無駄な動作が存在します。しかし概念として説明をするならば、階段を登る動作を想像してみてください。1段20cmの階段を登る動作です。まず右足を上げて1段上に踏み出します。そして右足の膝を伸ばすことで体全体を上に持ち上げ、今度は左足を2段目に着地させます。今度は左膝を伸ばして、、、という動作の繰り返しになります。
1段の高さが20cmの階段を登る場合、足は21cmずつ上げれば良いことになります。理想を言えば20.1cmずつ足を上げて登れれば良いのですが、これでは躓いてしまう危険が生じます。ですが逆に高く、足を30cmずつ上げて階段を登ったらどうでしょうか?つまり次に着地する段よりも10cm高く足を上げるということです。これではあまりにも高く足を上げ過ぎです。(地に着いている足の位置よりも)21cm足を上げれば登れるところを30cmも足を上げるという動作は、足を9cm高く上げる分のエネルギーを無駄に消費してしまっているということになります。
1段の高さが20cmの階段を3段登るためには、合計63cm分足を上げれば済みます。しかし1段を登るのに30cmも足を上げてしまうと、3段登るのに合計90cm足を上げる必要があり、30cm近く無駄に足を上げてしまうことになります。これではじわじわとスタミナは消耗されていき、階段をすべて登り切るだけでヘトヘトになってしまいます。投手でいうならば、5回までは好投できても、6回になると突然打ち込まれてしまうような状態です。
投球動作の中からすべての無駄を省くことは現実的ではありません。ですので1段の高さが20cmの階段を登るために21cm足を上げるということを参考にし、投球動作の中から、不必要な無駄な動きを削っていく作業が必要となります。先発では通用しないけど、リリーフでなら活躍できるというタイプの投手は、先発タイプの投手と比べると、投球動作の中に無駄な動作が多い傾向が強まります。投球動作の中に無駄な動作が多いために、長いイニングを投げれば投げるほどパフォーマンスが低下していってしまうのです。
熟練の投手コーチであれば、投球動作を見れば一瞬でどの動作が無駄かがすぐに分かります。しかしそのようなコーチが身近にいない場合は、身近に相談できるコーチや監督と話し合い、映像などを用いて投球動作を見直していくと良いと思います。投球動作の映像を何十回、何百回と見続けると、どの動作が、どのような影響をボールに与えているかがイメージできるようになります。そのイメージにおいて、ボールに好影響を与えていないと思われる動作を、投球動作内から省いてみると良いと思います。
すぐにすべてを解決できることはありませんので、投球動作の見直しは慌てずに、地道にやって行くようにしましょう。投球動作という運動は、非常に繊細です。歯車が1つ狂ってしまえば、すべて狂ってしまう怖れもあります。だからこそ慌てず、ゆっくりと見直していくようにしましょう。