投手にとっても最も難しい作業の1つが、力まずに投げるということだと思います。この作業はプロレベルの投手でも苦労していることで、力みなく投げられていても、ちょっとしたことがきっかけで力んでしまうこともあります。例えば好投をしている試合で、唯一クリーンヒットを打たれている打者を打席に迎えると、「今度は抑えてやろう!」という強い気持ちが力みを生じさせてしまいます。そして力んでしまったことで急に制球を乱し、それまでの好投が幻だったかのように簡単にノックアウトされてしまうことさえもあります。
さて、では力みとは一体何なのでしょうか?どうすれば力みなく投げられることができるのでしょうか?これを突き詰めていくと、やはり下半身の強化が最も近道であると言えます。下半身を強化し、楽に広いステップで投げられるようになれば、上半身に力を入れなくても力のあるボールを投げられるようになるため、投球動作中の腕から自然と力みがなくなっていきます。
理想は、投球の最初から最後まで腕の力を抜いておく、ということです。でもこれはさすがに理想論であって、実際にそれを実現するのは非常に難しいことです。ですのでポイントをしっかりと抑えて、そのポイントで力まないようにすることが重要なのです。ポイントを抑え、そのポイントで力を抜けるようになれば、下半身の主導で腕を楽に振ることができるようになります。
サイレントピリオドという言葉を聞いたことがあるでしょうか?筋肉を最大限活かすために必要なのが、このサイレントピリオドというものです。これは主に、投球動作内の腕の動きの転回時に発生します。つまり後ろに引くテイクバック動作から、前へ向かって加速していくための分岐点であるテイクバックの最深部です。あとは腕の最大外旋から内旋に変わっていくトップの位置でも発生することがあります。
ここでとにかく大事にして欲しいのは、テイクバック時のサイレントピリオドです。テイクバックの最深部、つまり投球肩の肩甲骨が最も背骨に近づいたところで、投球腕の筋肉活動量を0%にするということです。ここで一度活動量を0%にし、ニュートラルな状態にすることで、次の動作以降で筋肉を最大限活かしていくことができるのです。今回のコラムの最大のポイントがここです!
テイクバックの最深部、この時点で腕は最大内旋状態にあるのが理想的なのですが、最大内旋状態から、外旋に移行していくその瞬間、本当に一瞬だけ腕の力を完全に抜くように意識していってください。1秒にも全然満たないこの一瞬だけ腕の力を完全に抜き、サイレントピリオドを生み出すことにより、コッキングからアクセラレーションと続く一連の投球動作内に於いて、投球腕の活動量を最大に高められるようになるのです。力まずに投げるとは、まさにこの状態のことを言います。
腕の力を投球動作内で、最初から最後まで0%にすることは不可能です。もちろんそれができるのが理想ではありますが、そこには限度のない難しさが存在します。だからこそ必要以上に難しく考えるのではなく、ポイントを絞り、テイクバックの最深部でしっかりと力を抜くことだけを考えれば、力みなくボールを投げることができるようになります。そして無駄な力みをなくすことができれば制球力は向上し、試合の途中で息切れすることもなくなり、まさに良いこと尽くめ!簡単な作業ではありませんが、ぜひ時間をかけて地道に練習を繰り返し、サイレントピリオドを発生させられる投手になってください。