近年はアライメントの左右差をできる限りなくすということに注力しているトレーナー、選手が非常に多くなってきました。それはプロ野球チームのトレーナーも同様で、それが原因で投手コーチとの間に確執が生まれることもあるようです。普通の生活をする分には、左右差はできるだけ少ない方がいいと思います。例えば骨格や骨盤に左右のずれが生じると、慢性的な肩こりや腰痛を抱えてしまうことになります。
プロ野球においてもトレーナーのアドバイスに従い、一生懸命左右差をなくそうと取組んでいるピッチャーが増えています。しかし僕は、この取組みには違和感を覚えます。スポーツの中では確かに左右差がない方が安定したパフォーマンスができるものもあります。しかし野球というスポーツの中でも、特にピッチャーというポジションに限って言えば、左右差はあるべきだと僕は考えます。
ピッチャーは1試合に100球以上投げることは珍しくありません。ましてや合宿やキャンプなどでは200球も300球も投げる日だってあるでしょう。これを右ピッチャーで考えれば、右肩には左肩よりも100回以上の負荷がかかっているということになります。そして振り上げてステップする左脚にも、着地時に体重の何倍もの重力が同じ回数かかっているということになります。
つまり右ピッチャーの場合、左肩よりも右肩、右脚よりも左脚の方が強くなくてはならないわけです。この左右差を無理に是正しようとしてしまうと投球に必要なバランスが失われ、最悪の場合故障に繋がると僕は考えています。
右ピッチャーの右肩・左脚は、現状の体格・体重に対して発達していきます。つまりこの左右差を是正してしまうと、右肩・左脚にはさらに大きな筋力が必要になってしまいます。つまり右肩・左脚は、常時左肩・右脚よりも大きな負荷がかかっているため、このバランスを是正しようとすれば切りがなくなってしまいます。
この是正は主にウェイトトレーニングによってなくすのですが、是正するためには例えば右腕で10回持ち上げ、左腕で20回持ち上げるなどの差が必要になります。このようなトレーニングでは筋肉量を同じ重さにできたとしても、運動のメカニズムを考えればバランスは間違いなく悪化します。
見方を変えてみましょう。振り上げた左脚を着地させる際、その左脚には3Gとも5Gとも言われる重力がかかります。一方の右脚にはその重力はかかりません。つまり、左脚にはその重力に耐えうるだけの強さが必要になりますが、右脚には必要がないわけです。必要がないのに右脚を必要以上に鍛えてしまうと、鍛えた分はそのまま左脚への負荷にもなりかねないわけです。
だからこそピッチャーにとっては、アンバランスこそが最良なバランスなのです。右ピッチャーであれば左肩よりも右肩、右脚よりも左脚。左ピッチャーであれば右肩よりも左肩、左脚よりも右脚に、より強い力が必要なのです。でもだからと言って不自然に思えるほどのアンバランスではいけません。あくまでも自然な動きの中で生まれるアンバランスが必要なのです。
いくら右ピッチャーとは言え、右肩ばかりをウェイトで鍛えても意味はありません。トレーニング量は左右同じで、あくまでもピッチングをする中で、自然に右肩・左脚が反対側よりも発達したアンバランスが必要なのです。