ストレートは球速があっても、切れがなくては簡単に打ち返されてしまいます。これはピッチャーであれば誰もが知っていること。ではその「切れ」というものの正体を知っているピッチャーはどれくらいいるでしょうか?切れというものは、部分的には科学的に説明することができるんです。そしてそれは「rps」という単位で表します。rpsとはrevolution per second(1秒毎の回転数)の略で、物質が1秒間に何回転するかを表すための単位です。
西武時代の松坂大輔投手の150kmのストレートは、約41rpsだったそうです。そして阪神の藤川球児投手は同じく150kmで約45rps。日本球界を代表する剛速球の持ち主2人のrpsは、共に40を超えています。数値が計測されている選手の中だけでは、日本人投手で40rpsを超えているのはこの2人だけです。150kmのボールで40rpsを超えていれば、これは文句なしに「切れ」のあるボールだと言うことができます。
ですがもし、150kmのボールで35rpsしかなかったらどうなるでしょうか?これは松坂投手や藤川投手のストレートに比べると、まさに棒球と言える程度のボールになってしまいます。では球速を落としてみましょう。135kmで35rpsだったらどうでしょうか?この場合は切れ味抜群のストレートとなります。つまり同じ35rpsのボールの場合、150kmのボールよりも135kmのボールの方が切れがあると言うことができるわけです。
これに加え、リリースアングルも重要になってきます。藤川投手のリリースアングルは5°、松坂投手は10°です。つまりこの2人のボールは、僅かに5°、10°しか傾いていません。バックスピンのかかったボールにはマグナス力という力が働いています。マグナス力はボールの傾きが0°に近いほど強く働くため、傾きの少ない松坂投手や藤川投手のストレートには、まさに最大限に近いマグナス力、つまりボールを上方向に持ち上げる力が働いているということになります。
これらを踏まえ、切れのあるボールの投げ方をまとめていきましょう。
140km前後のストレートを投げられる投手の平均的なrpsは、だいたい33~38rpsくらいです。全力投球をして140km・38rpsの場合、よほどのトレーニングを積まなければこれらの数字を短い期間で向上させることは困難です。そして元気な時は140km・38rpsを出せても、疲労が溜まってくれば当然数字は落ち込んできてしまいます。
ボールに切れを出すためには、こだわるべきポイントは球速ではなくrpsなのです。140km・38rpsのボールが投げられる投手であれば、135km・38rpsのボールを投げられるように練習してみてください。全力投球の140kmに比べると、135km・38rpsのボールはスタミナを温存できるばかりではなく、ストレートの切れもアップします。
東京ヤクルトに石川雅規投手という167cmのピッチャーがいます。この小柄な投手は過去9シーズンで97勝を挙げていますが、石川投手のボールこそ、135km・38rpsという切れのあるボールなのです。このボールは140km・38rpsのボールよりも「スピンが利いている」と表現することができます。これからプロを目指そうとしているピッチャーには球速ではなく、スピンの利いたボールを投げるということを目指して欲しいと思います。
でもrpsなんて普通の環境では計測することはできません。そういう場合はボールの半分を黒く塗り潰したボールを使い、キャッチャーにその回転の感覚を覚えてもらいましょう。覚えてもらった感覚的な回転数をキープしながら、徐々に球速を落としていく訓練を積んでいけば、135km・38rpsのボールを投げられるようになります。そしてそれを可能にするためにはまず腕の力を抜いて投げられるようにしましょう。腕に力が入っていては切れのあるボールは投げられません。何度も言いますが投球に於いて力むべくポイントは、リリースするその瞬間のみです。慣れるまでは非常に難しいと思いますが、勝てるピッチャーになるためにはぜひチャレンジしてもらいたいと僕は考えています。