野球選手の肩痛はなぜ起こるのでしょうか?「投げ方が悪いから」と言ってしまえば元も子もないのですが、それを含め、やはり肩痛を繰り返し起こす選手はボールを投げるための理論を知りません。理論を知り、自分の身体に合った正しい投げ方をすれば、野球肩を回避することは十分可能です。
「自分の身体に合った投げ方」と書きましたが、ここが重要です。ピッチャーは身長によって投げ方を変えるのが、正しいピッチングモーションの作り方です。つまりまず考えなければならないのは、背が高いか高くないかという点です。僕の経験上その境目は、185cm前後だと考えています。
180cm以上で185cmを上回る身長の投手は、背が高いと分類します。そして185cm以下で180cmを下回る選手を背が高くないと分類します。ここでは背が高くない選手をAタイプ、背が高い選手をBタイプとして説明をしていきたいと思います。
まずAタイプの選手の場合、身長がそれほど高くはないということで、手足も必要以上には長くありません。ですので投球時、投げる手がそれほど遠回りしないので、肩に必要以上の遠心力が掛かることがありません。そのため横回転エネルギーでボールを投げることができるというわけです。横回転とは背骨(体幹)を軸にして、その軸回転を使う投げ方です。
一方Bタイプの長身投手の場合、身長に比例して手足も長くなります。長い手を使ってボールを投げると、当然それだけ大きな遠心力が掛かってしまいます。ボールを投げる際に生じる遠心力は、肩関節を引き離そうとするエネルギーが働きます。そのため長身投手の場合、Aタイプの投手のように横回転軸でボールを投げると、ローテーターカフに大きなストレスがかかり、肩痛を引き起こしてしまいます。
それを防ぐために、Bタイプの投手は縦回転軸で投げるのです。分かりやすく説明をすると、柔道の背負い投げのように、身体を前屈させることによって得られるエネルギーで投げる投げ方です。いわゆる真上から腕を振り下ろすような投げ方ですね。この投げ方の場合、横回転軸で投げるよりも腕にかかる遠心力は小さくてすみます。
上記の内容を踏まえると、やはり自分の身体に合った投げ方をしていない投手が非常に多いということが分かります。例えば190cmを超える選手がサイドスローに転向してみたり、子どもを含めて身体の小さな選手が真上から大きな腕の振りで投げていたり。選手個々の体格に合わない投げ方をすれば、当然故障のリスクは高まります。
例えば長身選手がコントロールに苦しみ、オーバーハンドスローからサイドハンドスローに変えることを、僕は良いとは思いません。その選手がコントロールに苦しむのはオーバーハンドスローのせいではなく、その投手のピッチングモーションに欠陥があるためです。その欠陥に気付かずに、まるで逃げるようにしてサイドに転向したとしても、その投手が大成するとは考えられません。
例えば181cmというどっちづかずの身長であった巨人の斎藤雅樹投手。斎藤投手は故藤田元司監督のアドバイスでオーバースローからサイドスローに転向し、90年代を代表する偉大な投手へと変身することができました。これなどは、指導者である藤田監督が斎藤投手の体格をよく理解し、それを活かすことができた好例です。
昨年だったでしょうか、ホークスの新垣投手がオーバースローからサイドスローに転向するというニュースが報じられました。今現在サイドなのかは分かりませんが、しかし189cmの新垣投手がサイドに転向すれば、それは体格に合わない投げ方ということになり、再び肩痛を悪化させてしまうことになるでしょう。新垣投手の場合はサイドに転向することよりもまずは、なぜオーバースローでコントロールが悪いのかという理由を知る必要があります。その理由を知ることができれば、制球難は克服できたはずなのです。
サイドスローにすれば制球が良くなると考えている選手は多いようですが、しかしそれは迷信です。サイドでもコントロールの悪い投手は悪いのです。自分の身体に合った正しい投げ方さえできていれば、オーバースローでもサイドスローでも、制球力は必ず上がります。ちなみに僕は近い将来、新垣投手のようなトッププロである悩める投手をサポートし、復活させてあげることを1つの目標にしています。